定年退職により収入が減少しました。養育費は減額されますか。(近年の2つの裁判例から)

その協議又は審判の基礎とされた事情に変更が生じ、従前の協議又は審判の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合には、養育費の減額を請求することができます。

過去に調停等で取り決めた養育費について、定年退職によって、収入が減少したことを理由として、減額を請求することはできるのでしょうか。

最近では、定年退職後に再雇用制度を利用して勤務する人も多いですが、収入の大幅減少は否めず、養育費の支払いが厳しくなるケースもあります。

養育費の減額に関しては、条文や過去の判例の蓄積により、実務上、次のような場合には減額が可能とされています。

「その協議又は審判の基礎とされた事情に変更が生じ、従前の協議又は審判の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合には、事情の変更があったものとして、協議又は審判による定めを変更することができる」(民法766条3項他)。

つまり、養育費の減額が認められるには、①「協議又は審判の基礎とされた事情に変更が生じたこと」(=養育費を定めた段階で予見できない事情であること)、②「前の協議又は審判の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至ったこと」(=現在の状況に照らせば定めた養育費が不相当に高額であること)の2つの要素を備える必要があります。

定年退職の場合には、①予見可能性に関する問題があります。

そもそも、定年退職はほぼすべての企業で定められており、それ自体は勤務する者にとって予見可能といえます。

そうすると、①「協議又は審判の基礎とされた事情に変更が生じたこと」(=養育費を定めた段階で予見できない事情であること)に該当せずに、事情変更とは認められないのでしょうか。

この点について、直近で、真正面から問題になった裁判例があり、下記のとおり、判断しています(広島高等裁判所令和1年11月27日決定)。

「原審審問において、抗告人が、本件和解離婚当時、定年が60歳であることは分かっていたと述べていることから、未成年者が満20歳に達する日の属する月の前に抗告人が定年退職を迎えることは、本件和解離婚当時、抗告人において予測することが可能であったといえる。しかし、予測された定年退職の時期は、本件和解離婚当時から10年以上先のことであり、定年退職の時期自体、勤務先の定めによって変動し得る上、定年退職後の稼働状況ないし収入状況について、本件和解離婚当時に的確に予測可能であったとは認められないのであって、本件和解条項が、定年退職による抗告人の収入変動の有無及び程度にかかわらず、事情の変更を容認しない趣旨であったとは認められない。したがって、本件和解離婚当時、抗告人において定年退職の時期を予測することが可能であったことは、定年退職による抗告人の収入減少が事情の変更に当たることを否定するものではない。」

この裁判例では、定年退職に関して、養育費の取り決め当時に、主に収入を中心とした勤務条件が予測できるかという観点から判断して、事情変更に該当すると判断しました。

ほとんどの養育費の調停や審判では、将来の定年退職は考慮されていませんので、結論においても、社会の実情に合った妥当なものだと思われます。

まとめますと、定年退職では、取り決め当時に定年退職後の勤務条件が予測可能であったかという観点から判断される可能性が高く、取り決めが定年退職から大きく離れている場合には、より事情変更と判断されやすいということになります。

財産状況によっては、予見不能な収入減少とみとめられても、養育費の減額が認められないケースもあります。

養育費の減額が認められるには、②「前の協議又は審判の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至ったこと」(=現在の状況に照らせば定めた養育費が不相当に高額であること)という要素も考慮要素となります。

例えば、定年退職時点でも、不動産や有価証券からの収入やその他財産状況によっては、十分に養育費の支払いが可能なケースもあります。

そのようなケースでは、定年退職による収入減から直ちに、養育費の減額が認められないという判断もあり得ます。

直近では、定年退職した側が資産状況の開示を拒んだケースで、事情変更が認められないと判断されたことがあります(東京高等裁判所令和2年11月27日決定)。

「相手方は、不動産収入がなくなり、…取締役を辞任したことから、収入関係に大幅な変動が生じたことがうかがわれる。しかし、相手方は、…取締役などの役職を歴任し、前件審判当時年収2000万円を超える高額な給与収入を得ていたことや、年間800万円を超える不動産収入を得ていた不動産を売却したことから、これまでにかなりの資産を蓄積しているものと推測される。そうすると、高齢となって会社役員を辞任し、給与収入がなくなったとしても、これまでの経歴や地位に照らし、資産を取り崩してある程度従前の生活水準を維持しようとすることが想定される。ところで、未成熟子に対する養育費の支払義務は、いわゆる生活保持義務であり、子の生活水準を親の生活水準と同程度に維持する義務であるから、相手方が資産をどの程度保有し、そこからどの程度生活費として費消しているかを解明しなければ、適切な養育費の金額を決めることは困難である。しかし、相手方は、抗告人から財産開示を求められ、当裁判所からも資料の提出を求められたのに、自己の資産について一部を開示したのみで、全体の資産の開示を拒んでおり、不動産の売却代金の使途なども明らかにしていない。そうすると、相手方の収入の減少だけでは養育費の金額を減額すべき事情の変更と認めるに十分ではなく、相手方の保有資産額や、日常の収支などが明らかにならないと適切な養育費を判断することができないから、本件においては、前件審判によって定められた養育費の金額を減額すべき事情の変更があるとは認められない。」

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