財産分与の審判で夫が自宅を取得する場合に、裁判所が妻に対して自宅の明渡しを命令できるとの判断がされました(最高裁令和2年8月6日決定)

事案の概要

抗告人(夫)が相手方(妻)に対して、財産分与の審判を求めた事案で、最高裁判所が新しい判断をしました。

当事者は別居した夫婦であり、抗告人(夫)は自宅の名義人でしたが、相手方(妻)が自宅に住んでいました。

裁判所は、自宅の名義を移転しない(つまり現在の名義人である夫が取得する)ことを判断しましたが、その際に、裁判所が相手方(妻)に対して自宅の明け渡しを命じることができるかが、問題となりました。

第1審は相手方(妻)に対して明け渡しを命じましたが、抗告審(第2審)はこれを取り消しました。

最高裁判所は、判決中で、「財産分与の審判において、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めることとされている(民法768条3項)。もっとも、財産分与の審判がこれらの事項を定めるものにとどまるとすると、当事者は、財産分与の審判の内容に沿った権利関係を実現するため、審判後に改めて給付を求める訴えを提起する等の手続をとらなければならないこととなる。そこで、家事事件手続法154条2項4号は、このような迂遠な手続を避け、財産分与の審判を実効的なものとする趣旨から、家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者に対し、上記権利関係を実現するために必要な給付を命ずることができることとしたものと解される。そして、同号は、財産分与の審判の内容と当該審判において命ずることができる給付との関係について特段の限定をしていないところ、家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の財産につき、他方当事者に分与する場合はもとより、分与しないものと判断した場合であっても、その判断に沿った権利関係を実現するため、必要な給付を命ずることができると解することが上記の趣旨にかなうというべきである。」「家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき、当該他方当事者に分与しないものと判断した場合、その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは、家事事件手続法154条2項4号に基づき、当該他方当事者に対し、当該一方当事者にこれを明け渡すよう命ずることができると解するのが相当である。」と抗告審の決定を破棄し、差し戻しをしました。

この最高裁判決により、財産分与の審判や離婚訴訟の附帯処分(最高裁は直接は言及していません)で、不動産の名義の変更をしない場合でも、当該不動産の明け渡しを命じることができることになりましたので、実務に対する影響は大きいです。

実務上、財産分与において、自宅等の不動産を名義人のままにするひとで「分与しないという判断」は多いので、悩ましい問題でした。

実務上、オーバーローン事案や名義人が取得すべき事案等、財産分与において、自宅等の不動産を名義人のままにすることで「分与しないという判断」をすることは多いです。

このような事案では、自宅の名義を移転する必要がないため、裁判所は、自宅について特に主文に記載しないまま、審判(附帯処分としての判決)をすることが実務上確立していました。

その際に、裁判所が主文に帰属の判断がされていない自宅について、さらに明け渡しを命じることができるかについては、実務上未解決の問題でした。

確かに、家事事件手続法第154条第2項第4号には、「財産の分与に関する処分の審判」との記載があり、主文に掲げていない「自宅」については「財産分与」をしていない以上、「財産の分与に関する処分の審判」に該当しないと解釈することも可能ではあります。

そのため、離婚に携わる実務家にとっては、手段選択を含め、悩ましい問題でした。

家事事件手続法第154条(給付命令等)

1 家庭裁判所は、夫婦間の協力扶助に関する処分の審判において、扶助の程度若しくは方法を定め、又はこれを変更することができる。

2 家庭裁判所は、次に掲げる審判において、当事者(第二号の審判にあっては、夫又は妻)に対し、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。

① 夫婦間の協力扶助に関する処分の審判

② 夫婦財産契約による財産の管理者の変更等の審判

③ 婚姻費用の分担に関する処分の審判

④ 財産の分与に関する処分の審判

財産分与の審判の事案ですが、人事訴訟(離婚訴訟)の附帯処分として行う場合も同様に解釈されると思われます。

今回、最高裁は、そもそも家事事件手続法第154条で、「物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。」と規定したのは、財産分与の審判の実効性確保のためであるとしています。そして、制度趣旨から、特定の不動産について「財産分与をしない」という判断をした場合においても、明け渡しの命令が可能としました。

今回の事案は、家事事件手続法の財産分与の審判の事案ですが、人事訴訟(離婚訴訟)の附帯処分として行う場合にも、法律の文言も似たものである上、制度趣旨自体が同じである以上、別に解釈する必要もないので、離婚訴訟の際の財産分与の附帯処分についても、今回で決着したものと考えられます。

もちろん、裁判所はあくまでも、財産分与の審判(附帯処分)の際に方法選択として、不動産の明け渡しを命じることが「できる」だけであり、事案によっては、不動産の名義をそのままにしつつ、明け渡しを命じないことも可能ですので、その点は誤解をしないようにする必要があります(例えば、不動産がオーバーローン物件で、不動産の名義人には不動産取得のための代償金の支払能力がなく、名義人ではない一方配偶者が相当程度ローンを支払っている事案等では、不動産の名義を移転しない(「財産分与をしない」という判断をする)としても、明渡の選択をするかは疑問です)。

人事訴訟法第32条(附帯処分についての裁判等)

1 裁判所は、申立てにより、夫婦の一方が他の一方に対して提起した婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、子の監護者の指定その他の子の監護に関する処分、財産の分与に関する処分又は厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第七十八条の二第二項の規定による処分(以下「附帯処分」と総称する。)についての裁判をしなければならない。

2 前項の場合においては、裁判所は、同項の判決において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。

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