退職金は財産分与の対象となりますか。

将来受け取る退職金であっても、財産分与の対象となる場合があります。

退職金は、会社を定年退職、自己都合退職などにより、会社を実際に会社を辞めた際にはじめて支給されるものです。①賃金の後払い的性格と②功労報償的性格の2つの性格を併せ持つとされています。

離婚時点で退職金を受け取っている場合には、支払われた退職金(通常は預貯金等別の財産に転嫁しているケースが多いですが・・)は財産分与の対象となるのが原則です。

しかしながら、離婚時点で在職中であって、退職金が支給されていない状態の場合には、退職金が財産分与の対象になるかが問題となります。

この分野に関しては多くの裁判例が存在し、「近い将来に受領し得る蓋然性が高い場合」には財産分与の対象となるとされています。

具体的に、どのような場合に「近い将来に受領し得る蓋然性が高い場合」と判断されるかを以下詳細に見ていきましょう。

最も重要な考慮要素は、定年退職までの期間です。

退職金が財産分与の対象となるかを判断するにあたって、定年退職までの期間は、最も基礎的かつ重要な考慮要素です。

定年退職まで相当な年数がある30代の場合には、30年後に退職金が支給されるかの見通しがつくことは非常にまれです。

例えば、今後、定年まで勤められず、会社の倒産や整理解雇により支給されない可能性があります。また、会社の業績が悪化し、無事に定年退職したとしても退職金がカットされることもあり得ます。

このような場合には、退職金を「近い将来に受領し得る蓋然性が高い場合」とはいえず、退職金を財産分与の対象とするということは困難であるといえます。

一方で、定年退職まであと数年の方の場合には、これまでどおり働いた場合には、基本的に退職金が支払われるはずですから、特別な事情がない限り、「近い将来に受領し得る蓋然性が高い場合」に該当するということになります。

公務員、大企業等、勤務先の規模によっても左右されるとされています。

定年退職までの期間が全ての考慮要素であるわけではありません。

公務員、大企業の従業員等、退職金に関する規定が存在し、退職時に規定に基づき正確に支払われる可能性が高い勤務先かも重要な考慮要素です。

実際問題として、公務員と家族経営の企業では、10年先に退職金が支給される可能性が全く異なります。

家族経営の企業では、退職金の規定が存在しない、創業者の社長の裁量部分が多い、倒産し支給されない可能性等といった事情により、現在退職した人の退職金水準を10年後に受け取る可能性が公務員と比べて低いのが現実です。

裁判例においては、会社の規模、退職金規定の存在、経営状態などの事情も考慮して、「近い将来に受領し得る蓋然性が高い場合」に該当するかを判断しています。

財産分与の対象となる退職金の評価額も注意が必要です。

退職金の金額に関しては、自己都合退職か、定年退職かにより、退職金の支給の金額が1.5倍以上異なる企業も少なくありません。

そのため、財産分与において、退職金の金額が何を基準として算出するのかには注意が必要です。一般的には、定年退職まで接近していれば、定年時の退職金を基準とすることが多いですが、裁判所において定まった基準があるわけではなく、個別の事情から判断しています。

次に、新卒採用者の場合には、就職後に結婚することのが多いことから、在職年数と婚姻期間が一致しないケースが非常に多く見られます。

実務では、財産分与の対象財産としての退職金は「退職金×婚姻期間÷在職期間」とするのが一般的です。

財産分与は、夫婦間の婚姻期間中の財産形成をその貢献に応じて、分与するものとされていますので、婚姻期間外に対応する退職金部分に関しては、夫婦の貢献によって形成された財産といえないと考えられるからです。

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